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スプレーガンの種類をすっきり解説(エア、エアレス、HVLP、静電…)

スプレーガンの種類をすっきり解説(エア、エアレス、HVLP、静電…)

塗装やコーティングに使われるスプレーガン。違いがわかりにくいですが、実は霧化の原理などにより4種類に大別されます。それぞれに長所と短所があるため、正しいタイプを選ばないと期待した塗装が実現できません。スプレーガンの使用を検討する際、必ず抑えておきたい基本のキを解説します。

エアスプレーガンとHVLP、エアレスの違いがわかりますか?

スプレーガンと言うとまず思い浮かべるのが、液体とコンプレッサーエアを混ぜて細かく霧化するエアスプレーガンです。しかしそれ以外にも、HVLPガンやエアレススプレーガン、静電スプレーガンが塗装の現場で使われています。その違いが何か、明快に説明できる人は少ないのではないでしょうか?それぞれどんなものか、以下に見ていきましょう。

 

塗装用スプレーガンの王道、エアスプレーガン

 

 

エアスプレーガン

長所 幅広い種類の対象物と塗料に対応できる。仕上がりが美しい

短所 飛散する。多量のVOCを排出する

塗着効率 30〜40%

 

100年以上前に開発されながら、自動車をはじめとする塗装現場でなお主役の座にあるのがエアスプレーガンです。長年使われ続けている要因は、その汎用性の高さにあります。対応できる対象物の形状、使用できる塗料の種類はほかのスプレーガンに比べて最多。またコンプレッサーエアにより微粒化したスプレーはムラがなく、美しい仕上がりをもたらします。価格も手頃なため、いまだに塗装手段の第一の選択肢となっています。

 

一方、エアスプレーガンの弱点は塗着効率の低さです。0.2〜0.3MPaの高圧エアで微粒化する場合、塗着効率は30〜40%程度にとどまります(注)。つまり、使用する塗料の60%以上は無駄になっている計算です。結果、塗料コストがかさむほか、溶剤系塗料を使用した際の多量のVOC(揮発性有機化合物)排出も、年々問題視されつつあります。

 

(注)高圧のエアで細かく霧化する塗装の場合の数値です。エアスプレーガンでも、0.05MPa程度の低圧で霧化することで、塗着効率は大幅に上がります。油などの塗布については、次のリンクをご覧ください(技術コラム「プレス加工の油塗布、3つの方法を徹底比較!」 )。

 

飛散防止型のHVLPスプレーガン

HVLPスプレーガン

長所 エアスプレーガンより高い塗着効率

短所 高粘度の液体は使えない。塗装スピードが遅い

塗着効率 50〜60%

 

エアスプレーガンの飛散の問題を改善するべく開発されたのがHVLP (High-Volume, Low-Pressure) スプレーガンです。エアスプレーガンが高圧エアをぶつけて液体を細かくばらすのに対し、HVLPはソフトにスプレーするため、エア圧力を0.05〜0.1MPa程度の低圧に抑制。代わりに多量のエアを使うことで霧化性能を補っています。エア供給源としてタービンモーターを使用するタイプと、エアコンプレッサーを使用するタイプがあります。

 

ワニス(ニス)、エナメルの塗装やメタリック塗装を得意とし、家具や自動車の補修、DIYによく使われます。一方、霧化性能が低いため、高粘度の塗料は使えません(例えば、ラテックスは希釈する必要があります)。塗装スピードも遅く、プロ向けではありません。

 

HVLPと似たコンセプトの飛散防止型スプレーガンとして、LVLP (Low-Volume, Low-Pressure) スプレーガンもあります。小型のコンプレッサーでも動く上、ガン自体も安価のためビギナー向けです。ただし、低粘度の塗料しか使用できず、塗布パターンも狭いです。

 

エアレスは外壁塗装など建築分野でメジャーなスプレーガン

 

 

エアレススプレーガン 

長所 塗装スピードが早い。厚塗りが可能

短所 仕上がりが粗い。小物の塗装には不向き。超高圧塗装のためケガのリスクあり

塗着効率 50%前後

 

エアではなく液体に圧力をかけて霧化するのが、エアレススプレーガンです。蛇口を全開にし、ホースの口を指でふさいで狭くすると、水はしぶき状になって吹き出します。エアレスガンの霧化原理はこれと同じです。プランジャーポンプやダイヤフラムポンプにより、液体に10〜20MPa の超高圧力をかけ、ノズル先端の小さな穴から吐出することで微粒化します。

 

エアレスの最大の特徴は、厚塗りが可能で塗装スピードが速い点です。外壁やフェンス、橋、船舶など、広い面積の対象物をスピーディーに塗るのに最適です。飛散も比較的少なく、高粘度の塗料も使用できます。屋外の建築物の塗装で活躍しているスプレー機器です。

 

ただし、塗料粒子が大きく仕上がりは粗いです。パターンの両端に「テール」と呼ばれる太いスジができてしまうこともあり、高級塗装には不向きです。また吐出量が多いため、小物の塗装や少量の液体塗布にも向いていません。

 

液圧を3.5MPa 程度まで下げることで、エアレスよりも塗着効率を向上させたエアエアレス(air-assisted airless sprayer)というタイプもあります。液圧低下により発生する塗りムラを解消するために、コンプレッサーエアを使います。

 

静電スプレーガンは塗着効率を大幅に向上させたハイテクガン

 

 

静電ガン

長所 塗着効率が高い。対象物の裏側にも塗料が回り込んで付着

短所 高価。対象物の材質、形状によっては塗料が付きにくい。火災リスクあり

塗着効率 40〜90%

 

静電粉体塗装ガン

長所 塗着効率がきわめて高い。厚塗りできる。VOC排出がほぼなくクリーン

短所 高価。薄膜に塗れない。塗料の色や種類が少ない。火災リスクあり

塗着効率 70〜95%

 

塗着効率の点でもっとも優れているのが静電スプレーガンです。ガン先端部に高電圧をかけることで塗料粒子を負極 (−)に帯電させ、アースされた対象物(正極(+))めがけて、塗料を電気的に吸着させます(コロナ帯電方式の場合)。スプレーガンの種類や条件によりますが、80〜90%の塗着効率を得られることもあります。気泡のない仕上がりは美しく、自動車ボディの中塗り・上塗り工程などで使われています。

 

優れた性能の静電スプレーガンですが、その分イニシャルコストは高くなります。1台あたり50万円以上するほか、高電圧発生機なども必要になるため、システム全体で多額の投資が必要です。

 

塗布する対象物についても制約があります。対象物の裏側にも塗料が回り込んで付着する一方、ファラデーケージ効果により奥行きのある構造物の内側の角などには塗料が付きにくいです。またプラスチックなどの絶縁性の対象物には、事前に通電剤を塗布しなければなりません。

 

静電粉体塗装ガンはVOC排出ゼロ

すでにエアスプレーガン、HVLP、LVLP、エアレス、エアエアレスを紹介しましたが、そのすべてについて静電タイプがあります。またそれとは別に、粉体塗料を吹き付ける静電粉体ガンもあります。その中で主流の静電ベル回転ガンは、先端のベルカップを高速回転させ、遠心力によって霧化します。粉末状の塗料を帯電した対象物に吸着させた後、焼き付け工程で溶解させ塗膜にします。

 

粉体塗装は厚塗りを得意とします。そのためフェンスや手すり、ポール、オフィス家具など、防錆性や耐久性を求められる対象物に主に使われます。有機溶剤を使用しないクリーンな塗装方法として、欧州では自動車ボディのクリア塗装にも導入が広がっています。

 

7種類のスプレーガンを性能でマッピングすると

ここまで説明したスプレーガンの性能は、「仕上がりの美しさ」と「塗着効率」の2つの軸で下のようにチャート化できます。

右上の象限に位置する静電ガンが最も優れているように見えますが、導入コストの高さや不向きな対象物があることも考慮する必要があります。逆にエアレスは左下の象限に位置しますが、その塗装スピードの速さから、建築塗装においては理想的な塗装機器と言えます。諸々の特徴を把握した上で、あなたに最適なスプレーガンを選んでください。

 

(注)ルミナ(扶桑精機(株))はエアスプレーガンのメーカーです。

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